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ドイツにおける道路政策と都市政策の現状に関する調査 特別研究官 | 会計検査に関する調査研究 | 外部との交流活動 | 会計検査院 Board of Audit of Japan

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(1)

平成27年度海外行政実態調査報告書

ドイツにおける道路政策と都市政策の現状に関する調査

A Study on the Current State of Road Transport and Urban Policies in Germany

特別研究官 中東 雅樹(新潟大学経済学部准教授)

(2)

目次

1. はじめに...1

2. ドイツの道路政策の現状と課題...4

2.1 ドイツの道路政策の概要...4

2.1.1 連邦長距離道路整備の制度概要...4

2.1.2 州道整備の制度概要...5

2.2 連邦長距離道路整備の現状...6

2.2.1 BVWP 2015 について... ...6

2.2.2 道路財源について...10

2.2.3 連邦長距離道路に対する PPP の適用可能性について...11

2.2.4 今後の展望...13

2.3 州道整備について...13

2.3.1 州道の状態について...13

2.3.2 道路向け予算について...14

2.3.3 今後の道路整備の方向性について...17

2.4 小括...18

3. ドイツの都市政策の現状と課題...20

3.1 国土計画・都市計画制度の概要...20

3.1.1 国土計画の基本的枠組み...20

3.1.2 ドイツにおける都市計画による規制...22

3.1.3 都市計画の歴史的変遷...23

3.1.4 都市計画の財源...24

3.2 住宅政策...25

3.3 東の都市改造(Stadtumbau Ost)...26

3.4 グリーン・インフラストラクチャー(Green Infrastructure)...27

3.4.1 グリーン・インフラストラクチャーに基づく政策...27

3.4.2 エムシャー・ラントシャフトパーク(Emscher Landschaftspark)...28

3.5 都市政策の現状...29

3.5.1 ドイツの都市の人口構造と都市計画について...29

3.5.2 都市政策の予算とその統制について...31

3.5.3 下水道について...31

3.6 都市政策に対する会計検査―「東の都市改造」を例にして―...,,,33

3.6.1 ザクセン=アンハルト州会計検査院の会計検査...33

3.6.2 会計検査の事例―「東の都市改造」の会計検査―...33

(3)

3.7.1 減築政策の持続可能性について...34

3.7.2 都市政策の費用負担について...35

3.8 小括...36

4. 公平性について...38

4.1 「公平性」の取り扱い...38

4.2 「生活関係の等価性」の解釈と政策手段...39

(4)

1

1.

はじめに

近年の日本の社会資本をめぐっては、2012年12月の中央自動車道笹子トンネル天井板落

下事故以降、老朽化問題に注目が集まるようになるとともに、人口減少に伴う社会資本整

備のあり方が注目されている。現状の日本の公共投資政策は、老朽化対策におけるアセッ

トマネジメントの考え方を取り入れた仕組みや、民間活力を利用した社会資本整備といっ

た、社会資本サービスの供給における経済効率性を高める方法論に関する施策が中心にな

っている。しかし、将来的に進展する人口減少下の社会資本整備のあり方を考えるにあた

っては、新規建設と維持補修との優先度の関係、さらに社会資本の減築を含めた「選択と

集中」をどう進めていくかも検討されるべきだが、日本では今のところ明確な政策方針が

示されてはいない。

特に、人口減少下の日本における社会資本整備では、経済効率性の観点からみれば、社

会資本の受益者の減少を踏まえ、都市部への人口集中を促しつつ社会資本を面的にコンパ

クト化するといった方策も考えられるだろう。ただし、国民の最低限の生活水準を確保す

る点から必要になる社会資本(たとえば、道路、上水道、防災関連(治山、治水、下水道))

は、公平性の観点からみても、居住者が存在するにもかかわらず減築するといった政策手

段をとることは現実的とはいえない。この点から、日本の公共投資政策は、全体的な効率

性をできるだけ確保しながら、個別の社会資本でみれば多少の非効率性を許容するといっ

た考え方も検討していく必要があると考えられる。

ドイツでは、表 1 で示しているように、東西ドイツ統一以降、全国レベルでみると、過

去および将来にわたって人口減少が続いていることがわかる。さらに、旧東ドイツ地域と

それ以外の旧西ドイツ地域の人口推移を比べると、2030 年にかけて、旧西ドイツ地域は増

加傾向を示すが、旧東ドイツ地域は一貫して減少し続けており、地域差が存在することが

わかる。さらに、財政赤字の削減のための過少な公共投資は、結果として老朽化問題を生

じさせているという指摘もみられる。そうした中で、道路と鉄道、水路を含む交通インフ

ラ整備においては、連邦政府レベルでは、「連邦交通路計画」(Bundesverkehrswegeplan)に

よる維持補修を優先する政策転換や、州などの地方公共団体レベルでは、「東の都市改造」

(Stadtumbau Ost)や「西の都市改造」(Stadtumbau West)などによる中心市街地の活性化の

(5)

2 表1 ドイツの州別人口の推移

(注1) 2011年は国勢調査の数値である

(注2) 2030年と2060年の人口予測は、移民の影響は低位のものを用いている (出所) Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計局)より筆者作成

そこで、本海外実態調査の目的は、ドイツにおける社会資本の老朽化対策の現状および

「東の都市改造」などの中心市街地活性化対策を核として、ドイツの道路政策と都市政策

の現状と課題について、インタビュー調査を通じて明らかにすることにある。日本と類似

的な状況にありながら、社会資本の老朽化問題や都市政策の課題への取り組みを進めてい

るドイツにおける調査を通じて、今後の日本における公共投資政策の方向性を見出す際の

有力な示唆を得られることが期待できる。

具体的には、社会資本の老朽化に関しては、道路を対象に調査を行い、①管轄している

道路の状況と予算について、②維持補修に向けた政策、③道路政策に関する将来的な展望

について、連邦と州を対象にインタビュー調査を行った。連邦レベルについては、連邦交

通路計画の立案主体である連邦運輸デジタルインフラ省、州レベルについては、州道の管

理状況が管理者である州の経済状況に影響する可能性を考慮し、州の経済状況が異なる2 ( 単 位 : 万 人 )

1991年 2011年 2030年 2060年

旧 東 ド イ ツ 地 域

ベ ル リ ン 州 344.6 329.2 371.1 354.2

ブ ラ ン デ ン ブ ル ク 州 254.3 245.6 232.1 173.1

メ ク レ ン ブ ル ク = フ ォ ア ポ ン メ ル ン 州 189.2 161.0 144.4 108.1

ザ ク セ ン 州 467.9 405.7 378.2 307.8

ザ ク セ ン = ア ン ハ ル ト 州 282.3 228.7 191.7 139.4

テ ュ ー リ ン ゲ ン 州 257.2 218.9 191.6 145.6

小 計 1,795.5 1,589.1 1,509.1 1,228.2

旧 西 ド イ ツ 地 域

バ ー デ ン = ヴ ュ ル テ ン ベ ル ク 州 1,000.2 1,048.7 1,077.6 960.2

バ イ エ ル ン 州 1,159.6 1,239.8 1,293.3 1,143.0

ブ レ ー メ ン 州 68.4 65.1 64.3 57.1

ハ ン ブ ル ク 州 166.9 170.7 184.0 174.7

ヘ ッ セ ン 州 583.7 597.2 603.0 528.8

ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 747.6 777.8 749.8 622.2

ノ ル ト ラ イ ン = ヴ ェ ス ト フ ァ ー レ ン 州 1,751.0 1,753.8 1,693.6 1,437.1

ラ イ ン ラ ン ト = プ フ ァ ル ツ 州 382.1 399.0 382.9 315.8

ザ ー ル ラ ン ト 州 107.7 100.0 89.5 68.7

シ ュ レ ス ヴ ィ ヒ = ホ ル シ ュ タ イ ン 州 264.9 280.0 276.9 225.2

小 計 6,232.0 6,431.9 6,786.0 5,887.0

(6)

3

つの州、すなわち人口減少がドイツ全体に比べれば小さく経済的に豊かで、産業としては

重工業中心の地域であるノルトライン=ヴェストファーレン州(州都デュッセルドルフ)、

および人口減少がドイツ全体に比して大きい旧東ドイツ地域からザクセン=アンハルト州

(州都マグデブルグ)を調査対象にした。なお、連邦会計検査院は今回訪問しなかったが、

連邦運輸デジタルインフラ省での調査においてpublic-private partnership(以下、PPP)に関

して同省と連邦会計検査院との間に意見の相違があることが判明したので、連邦会計検査

院に対して、PPPを中心テーマにして補足的に文書で質問、回答のやりとりによる調査を行

っている。

また、「東の都市改造」を含む都市政策に関する調査では、都市政策に関する調査を踏ま

えた知見を得る観点から、都市政策の個別事例を対象とした研究を数多く行っているドル

トムントの地域都市開発研究所(Institut für Landes- und Stadtentwicklungsforschung:ILS)と

ベルリンの都市問題研究所(Deutsches Institut für Urbanistik:Difu)、連邦レベルでは都市政

策を担当している連邦環境建設省を調査対象とした。さらに「東の都市改造」を中心にし

て都市政策に関する会計検査の視点からみた評価を知ることを目的にしてザクセン=アン

ハルト州会計検査院を調査対象とした。

最後に、本調査に至る過程では、現地調査に同行していただいた岡本喜代志調査官をは

じめ、戸田直行調査課長(当時)、谷野正明調査課長、山田雄二研究企画官、青木孝浩総括

副長、坂本斉子副長(当時)、高橋英明副長ほか調査課(研究担当)の皆さまにアレンジお

よびサポートをしていただいた。ここに記して御礼申し上げたい。

なお、本報告書の見解は、会計検査院の公式見解を示すものではなく、筆者個人のもの

(7)

4

2.

ドイツの道路政策の現状と課題

2.1 ドイツの道路政策の概要

ドイツにおける道路は、それぞれの行政レベルで管轄している道路が存在している。本

節では、連邦道と州道に絞って政策の概要を説明する。

2.1.1 連邦長距離道路整備の制度概要

1

ドイツにおける連邦所管の交通網整備では、計画レベルにおいて、連邦が道路、鉄道、

水路を一体として扱い、15 年を一期間としてそれらの整備計画を立てている。具体的に整

備する道路、鉄道、水路は、「連邦交通路計画」として公表される。2015年9月現在、2001

年から 2015 年の 15 年間の道路整備について 2003 年に公表された連邦交通路計画である

Bundesverkehrswegeplan 2003(以下、BVWP 2003)に基づいて整備が進められている。なお、

2016 年から 2030 年までの具体的な整備箇所については、現在作成中の

Bundesverkehrswegeplan 2015(以下、BVWP 2015)で示されることになる

2 。

BVWP により実際の連邦長距離道路整備のリストが公表されるプロセスは、大まかにい

えば、①整備プロジェクトの提案を受け、②交通量予測と交通網の評価、費用便益分析な

どでプロジェクトを評価し、③それらの評価に基づいて優先順位付けを行い、④その結果

を公表し、⑤内閣による決定と議会への提示、法定化を踏むことになる。その結果は、連

邦交通路計画として、整備の優先順位がつけられたリストが公表される。そして、計画が

確定した後、整備対象になった連邦長距離道路の具体的なルート決定や実際の整備は、州

により行われることになっており、そのために必要な資金は連邦から州に提供される。

連邦長距離道路整備のための財源は、旧来は連邦政府の財政支出のみで賄っていたが、

近年は料金収入を取り入れつつあり(図 1)、2005 年 1 月 1 日から連邦長距離道路のうち

14,000km(アウトバーン12,800kmおよび一部の連邦道路1,200km)を対象にして、12t以上

のトラック利用に対して通行料金を徴収している 3

。その後、課金対象となる連邦長距離道

路の総延長は、2015年7月1日より1,100km増加し、2015年の10月1日からは、通行料

金徴収の対象が7.5t以上のトラックも含むことになった 4

。さらに、2015年6月には、乗用

1

本項は、山崎(2008)と日本高速道路保有・債務返済機構(2012)、Ministry of Transport, New Zealand Government (2014)を参考にして記載している。

2

2015年9月の現地調査では、次期連邦交通路計画の名称はBVWP 2015であったが、2016年3

月16日発表時においてBVWP 2030に名称が変更されている。

http://www.bmvi.de/DE/VerkehrUndMobilitaet/Verkehrspolitik/Verkehrsinfrastruktur/Bundesverkehrswe geplan2030/bundesverkehrswegeplan2030_node.html

3

2009年1月1日には高速道路通行料金が改正されている(山口和人 (2009)「【ドイツ】高速道

路通行料金法等の改正」『外国の立法』2009.4、29頁)。 4

(8)

5

車を対象にした料金徴収が2016年から行われることが決定した 5

。乗用車の料金徴収方法は、

電子ビニエット(証書)を購入する方法である。具体的には、事前に利用者がインターネ

ットで自身の通行形態(時間帯や利用する道路の範囲、利用期間等)を踏まえて料金選択、

支払いを行い、利用の有無をナンバープレートの読み取りで確認する、というものである。

なお、電子ビニエットの購入費は自動車税から控除されるため、ドイツ国内で登録される

乗用車の利用者の実質的な負担が増えないように配慮している。

図1 連邦長距離道路の財源の流れ

* VIFG(Verkehrsinfrastrukturfinanzierungsgesellshaft)は、連邦長距離道路の料金徴収会社である。

** Bundesstraßen mit Ortsdurchfahrtの筆者訳で、市町村が管理する連邦道路をいう。人口8万人または5万

人を超える市町村は、当該市町村を通過する連邦道路を管理することとされている。 (出所) Becker et al. (2010) 図1に基づき筆者作成

2.1.2 州道整備の制度概要

州は、州道の計画から整備、維持、オペレーションまでに至る全てのプロセスを所管し

ている。ノルトライン=ヴェストファーレン州では、連邦長距離道路の整備における連邦

交通路計画と同じように、州道の整備について15年を一期間として整備計画を立てている。

州道整備の財源は、各州の自主財源と交通整備を目的にした連邦補助金から成る 6

。連邦

5

以下の記述は、渡辺富久子 (2015)「【ドイツ】乗用車のアウトバーン通行料金の導入」外国の

立法(2015.7) 立法情報を参考にした。

6

以下は、土方(2005)とWatanabe(2010)、高峯(2015)を参考に記載している。詳細については、こ

れらの文献を参照されたい。

収入源

供給・資金調達の

ための制度

支出先

トラック通行料金

エネルギー税

(鉱油税)

車両税

その他の税

連邦予算

州予算

市町村予算

VIFG

*

アウトバーン

連邦道路

地域通過連邦道路

**

(人口

8

万または

5

万超)

特定支出の

一括概算

連邦長距離道路

特定支出

(9)

6

補助金は2種類あり、一つは「解消法」(Entflechtungsgesetz)とよばれる地域交通助成であ

り、もう一つは「地域化法」(Regionaliserungsgesetz)である。

解消法は、もともと自動車交通の発展にともなう道路および地域公共交通のインフラ整

備を目的にして、鉱油税(現エネルギー税)の引き上げ分を財源にした「地域交通助成法

(Gemeindeverkehrsfinanzierungsgesetz:GVFG)」を起源としている。解消法による連邦補助

金は、連邦の一般財源から決められた一定額を、道路や地域公共交通の整備等を使途にす

ることを目的にしたもので、総額は 13億 3550万ユーロとすることで法定化されている。

そして、法定化された総額は、人口などの指標により配分割合が決定されて、州に配分さ

れる。なお、各州に配分されたものは、道路や地域公共交通の整備等に係る投資であれば

特に使途が限定されていない。

地域化法は、1990 年代の鉄道の民営化において近距離の旅客鉄道の権限を州に委譲した

ことにともなって、近距離旅客鉄道等の運営や整備費の補助を目的としたものである。金

額は、2008年が66億7500万ユーロで、以降1年毎に1.5%が増額されることになっている。

なお、使途については、各州の裁量にゆだねられている。

2.2 連邦長距離道路整備の現状

2.2.1 BVWP 2015について

BVWP 2003では、水路や鉄道を含む交通全体について、費用便益比が1を上回る事業の

みを実施する、といったように経済的に有意義である事業のみを実施するようにしていた。

ただし、連邦運輸デジタルインフラ省は、BVWP 2015 に向けて、現行の実施計画である

BVWP 2003を踏まえた課題だけでなく、さまざまな見地から指摘された事項への対応につ

いて述べている。具体的には、①人口減少への対応、②通過交通の大規模化への対応、③

不十分な維持補修による経済活動への影響への配慮、④交通ネットワーク上の欠陥の是正、

⑤環境の観点の取り入れ、⑥財源不足、⑦連邦交通路計画そのものが分かりにくいことへ

の対応の必要性を指摘している。

ここでは、上記のうち統計データを用いて明らかにできるものを 2 点取り上げる。一つ

は、通過交通の大規模化である。図2は、通行量指標と実質GDPの変化率の時系列推移を

示している。2008年から2009年にかけてのリーマンショックの期間を除き、実質GDPの

変化率よりも通行量指標の変化率は常に大きくなっていることがわかる。このことは、人

(10)

7 図2 通行量指標とGDPの変化率の推移

(注) 通行量指標はBeförderungsleistung、GDP(Bruttoinlandsprodukt)は連鎖方式の実質値を用いている。 (出所) Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計局)より筆者作成

また、表2は、BVWP 2003における計画と2012年までの実施状況、2012年までに未実

施の事業の規模を示したものである。なお、表 2 をみると、まだ実施されていないプロジ

ェクトがかなり残っていることがわかる。このことについて、連邦運輸デジタルインフラ

省は、BVWP 2003 では州からのプロジェクトへの申請希望が多く、州の希望をほぼ反映し

たことによる結果と考えており、今後は連邦が必要と考えているものに限っていく必要性

を指摘している。

表2 BVWP 2003における計画と実施状況

(注) 2013年以降の未実施の合計は、建設価格の上昇と、プロジェクト、BVWP 2003または需要計画2004

の初期の見積もりに比べて高くなったプロジェクトの費用増に基づいている。 (出所) Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur (2014) 表1

-12 -9 -6 -3 0 3 6 9

1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014

通行量 実質GDP (%)

連 邦 水 路 連 邦 長 距 離 道 路 連 邦 鉄 道 合 計

( 億 ユ ー ロ ) ( 億 ユ ー ロ ) ( 億 ユ ー ロ ) ( 億 ユ ー ロ ) BVWP 2003見 積 も り

2001-2015 51 515 339 905

実 行 済 み 支 出

2001-2012 32 323 167 522

未 実 施 の 合 計 2013年 以 降

(11)

8

以上のことを踏まえ、連邦運輸デジタルインフラ省では、BVWP 2015における優先度の

基本的な枠組みは、図 3 に示しているように、基本的には、現存する連邦長距離道路の維

持および補修を最優先で実施する優先順位付けが案として提示されている。そして、改修

と新築は、現在進行中のプロジェクトを優先的に実施し、その残りとして新規プロジェク

トを実施、という優先順位付けを行うこととしている。

維 持 補 修 を 優 先 さ せ る こ と に つ い て は 、 連 邦 会 計 検 査 院 に よ る レ ポ ー ト

(Bundesrechnungshof (2015))の指摘とも整合的である。これによれば、実地検査などを通

じて、連邦長距離道路でさえ維持補修向け予算は不足している、という指摘をしている。

さらに、貨物交通の重量増加や、維持投資も表面の舗装を中心とするものであるために、

より深層部分にある構造物が継続的に悪化していること、資材価格の上昇、維持投資が適

切に行われていないことを指摘し、それらが重なり合った結果として、道路の質の悪化を

もたらしている、と指摘している。

改修や新築に関しては、原則として費用便益比が 1 を上回ることを前提にして、州(地

域)をまたぐ道路整備を優先させることとしている 7

。特に、ボトルネックの解消といった

経済効果が高く、実現可能性が高いものはより優先度を高く設定しているとも述べている。

さらに、連邦デジタルインフラ省は、インタビューのなかで、15年以内に建設可能なもの、

環境条件などの制約により20~30年程度建設期間を要するものがあれば、前者を優先させ

るとも述べている。

なお、BVWP 2015は現地調査時点(2015年9月)で基本コンセプトが公表されている段

階であり(Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur (2014))、それをもとにして

具体的に優先順位付けされた整備区間のリストはまだ公表されていない。

さらに、現在の道路整備状況に関して地域間の公平性の観点からの評価について、連邦

運輸デジタルインフラ省は、連邦長距離道路が2015年1月1日時点で51,866km整備され、

国民の 90%が連邦長距離道路に 10km 以内でアクセスできる状況にあるため、地域間の公

平性の観点からみても道路整備水準は高く、かつ地域差はないと述べている。この点から

みても、新規の優先度を低くすることに問題がないと判断していると考えられる。

7

連邦運輸デジタルインフラ省のインタビューでは、州にまたがらないものであっても、別の基

準にしたがい優先度を高くする可能性はあると述べている。その例として、バルト海に接する A20(アウトバーン20号線)を挙げていた。これは、旧西ドイツ地域とのアクセスを容易にす

(12)

9

図3 BVWP 2015における道路整備の優先順位の決定プロセス

* リンク機能ランクが0および1の連邦道路だけでなくアウトバーンに似た連邦道路を含む、地域をまた

ぐ重要な連邦道路を指す。

(出所) Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur (2014) 図14

1. 維持/補修の決定

2.

3.

< 基 準 > ・ 費 用 便 益 分 析 ・ 環 境 保 護 、 自 然 保 護 ・ 地 域 計 画

・ 都 市 建 設

プロジェクト評価と結果と して生じる財源配分に基 づく戦略的優先付け

< 基 準 >

全 計 画 の 効 果 の 比 較 < 基 準 >

維 持 需 要 予 測

ア ウ ト バ ー ン 、 地 域 を ま た ぐ 重 要 な 連 邦 道 路

新プロジェクト 新プロジェクト

VB+ VB WB/WB*

VB WB/WB*

そ れ 以 外 の 連 邦 道 路

新プロジェクト

VB+ VB WB/WB*

水 ( 水 路 )

新プロジェクト

VB+ VB WB/WB*

維持需要予測+単独プロジェクト評価+全体的な財源

インターモーダルのなか での緊急度

結果:全国の優先順位案 改修と新築 維持/補修

道 路 レ ー ル ( 鉄 道 ) 水 ( 水 路 )

進行中のプロジェクト 進行中のプロジェクト 進行中のプロジェクト

(13)

10

図4 BVWP 2015における新設道路の評価における優先度基準

* リンク機能ランクが0および1の連邦道路だけでなくアウトバーンに似た連邦道路を含む、地域をまた

ぐ重要な連邦道路を指す。

(出所) Bundesministerium für Verkehr und digitale Infrastruktur (2014) 図16

2.2.2 道路財源について

2005 年以降から現在にかけて、料金収入を増やす施策をとっているが、これは、道路財

源をめぐる法律の改定による影響と考えられる。

ドイツにおける道路財源において、日本と同じように道路整備を目的とした特定財源化

は 行 わ れ て い た 。Becker et al. (2011)に よ れ ば 、1960 年 か ら の 道 路 整 備 財 源 法

(Straßenbaufinanzierungsgesetz)において、鉱油税(現エネルギー税)の一部を道路整備に

拠出することとされていた。しかし、議会は、予算法を改正して、1973年以降 8

、道路整備

に独占的に使用するのではなく、他の交通手段にも使用できるよう議決した。

8

1973年以降であることは、渡辺富久子 (2015)「【ドイツ】乗用車のアウトバーン通行料金の導

入」外国の立法(2015.7) 立法情報を参考にした。 WB

WB

近 未 来 に 実 施 す る 保 全 需 要 の 改 修 ( た だ し 費 用 便 益 比 は 高 く な い )

VB

費 用 便 益 比 > 1 高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 ) 都 市 計 画 ・ 地 域 計 画 の 高 い 重 要 性 ( た だ し 費 用 便 益 比 は 高 く な い )

高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 )

費 用 便 益 比 > 1

それ以外の連邦道路

都 市 計 画 ・ 地 域 計 画 の 高 い 重 要 性 ( た だ し 費 用 便 益 比 は 高 く な い )

非 常 に 高 い ま た は 高 い 交 通 負 荷 ( 水 路 カ テ ゴ リ ー Aま た は B )

高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 ) 高 い 費 用 便 益 比

( 正 の 感 度 分 析 )

改修と新築

VB+

VB

近 未 来 に 実 施 す る 保 全 需 要 の 改 修 ( た だ し 費 用 便 益 比 は 高 く な い )

高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 )

高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 )

道路

ア ウ ト バ ー ン 、 地 域 を ま た ぐ 重 要 な 連 邦 道 路 *

高 く な い 環 境 負 荷

( ゾ ー ニ ン グ の 決 定 に お い て 支 配 的 な 決 定 が な さ れ て な い か ぎ り ) ボ ト ル ネ ッ ク の 解 消 ま た は 高 レ ベ ル の 減 少

( 2 01 0年 ま た は 2 03 0年 に お い て 非 常 に 交 通 量 の 多 い 区 間 )

非 常 に 高 い 交 通 負 荷 ( 水 路 カ テ ゴ リ ー A )

高 い 費 用 便 益 比 ( 正 の 感 度 分 析 )

(14)

11

もちろん、こうした議決があったとしても、道路整備の必要性が認識されていれば必要

な予算は確保されるはずである。しかし、連邦運輸デジタルインフラ省によれば、道路予

算は削減されてきているとのことである 9

通行料金の賦課は、2005 年から始まっている。2005 年の段階では、12t 以上のトラック

のみに通行料金を課していたが、その後、対象とするトラックを増やし、今年からは乗用

車に対しても通行料金を課すようになった。これについて、連邦運輸デジタルインフラ省

は、近い将来、料金収入で連邦長距離道路の維持管理等を賄える状況を実現できると想定

しているようである。同省の想定によれば、12t以上のトラックを対象にした通行料金収入

は、年間35億ユーロで、料金賦課対象となるトラックが増えることによる増収が同じく15

~20億ユーロ、2016年からの乗用車に対する通行料金の賦課は、料金徴収のための経費を

除いて道路整備に利用でき、それによる増収が年間 5 億ユーロ見込まれている、と述べて

いる。

さらに、近年は、EUからの支援制度としてCEF(Connecting Europe Facility) 10

があり、

ドイツも通過交通が存在することから、連邦政府はEU からCEFからの資金を受け取って

いる。この資金も、エネルギー税と同様に全てが道路整備に充てられるわけではない。

なお、連邦長距離道路の整備を実際に行うのは前述のように州であるが、ザクセン=ア

ンハルト州へのインタビューによると、連邦から州に支給される金額について、十分では

ないという指摘がみられた。連邦長距離道路向け予算は連邦政府から支給されており、建

設費に加えて、州による実施に伴う事務経費として建設費の3%が付加されているが、経費

分としての3%は50年前に決められたルールであり、これでは足りないとのことである。

2.2.3 連邦長距離道路に対するPPPの適用可能性について

連邦運輸デジタルインフラ省の PPP への期待は大きいと思われる。それは、PPP により

一般的に期待されている建設費用の削減だけでなく、前述のように税財源による道路整備

が難しいことによると考えられる。

過去、連邦運輸デジタルインフラ省が実施していた PPP は、民間部門が料金収入の全体

もしくは一部を受け取ることができるFモデル(F-Modell 11

)によるプロジェクト、大型輸

送車(HGV)の台数および輸送距離を報酬として支払うEモデル(E-Modell 12

)によるプロ

9

日本では2009年に誕生した民主党政権下で鳩山由紀夫首相(当時)が「コンクリートから人

へ」という理念のもとで公共投資の削減を含む財政構造改革を進められたが、連邦運輸デジタル

インフラ省へのインタビューで、ドイツにおいても「コンクリートから頭脳への投資へ」という

スローガンがあって公共投資に予算が回ってこなかった、と述べている。 10

CEFは、欧州を横断する交通、エネルギー、通信のネットワーク整備のためにEUが支援す

る制度で、2014年に創設されたものである。詳細は以下のリンクを参照されたい。 https://ec.europa.eu/inea/en/connecting-europe-facility

11

F-Modellは、Fernstraßenbauprivatfinanzierungsgesetz(高速道路建設民間資金法)にちなんで名

付けられている。 12

(15)

12

ジ ェ ク ト で あ っ た 。 現 在 は 、 道 路 サ ー ビ ス の 質 に 依 存 し た 報 酬 体 系 を と る V モ デ ル

(V-Modell 13

)によるプロジェクトが実施されている 14

PPPに対しては、連邦運輸デジタルインフラ省と連邦会計検査院で異なる見解をもってい

る 15

。大まかにいえば、連邦運輸デジタルインフラ省は、①高い費用効率性、②建設期限を

守りやすくなること、③高品質の道路建設が可能になること、④道路管理に対する新たな

推進力、という 4 つの利点があると述べている。他方で、連邦会計検査院は、民間部門で

資金を調達することに比べて公債発行など政府部門による資金調達は金利負担を低くでき

るにもかかわらずPPPモデルを適用することに対して批判的である。

連邦会計検査院の批判は、大まかにいえば、連邦運輸デジタルインフラ省が利点として

述べていることが、PPPを適用してそれほど大きな効果があるのか、という疑念であると考

えられよう。連邦会計検査院は、もし民間部門の高い資金調達コストが建設、維持やオペ

レーションの費用の節減によって穴埋めされるのであれば、PPPモデルの適用は成功しうる

ものかもしれないが、建設部門における潜在的な技術革新や潜在的な費用節減の余地は限

られ、維持やオペレーションの部門でも、潜在的な費用節減は限られたものであると指摘

している。この指摘と、政府部門の長期資金調達コストに比べて民間部門の長期資金調達

コストの方が一般的に高いことを踏まえると、PPPの適用は、それほど有利ともいえないと

いう指摘といえよう。

さらに、連邦会計検査院は、料金収入の不確実性が存在することから、FモデルやEモデ

ルではなく、サービスの質に依存して報酬を決めるVモデルを勧告している。これは、PPP

におけるリスク負担の観点からみれば、FモデルやEモデルでは料金収入リスクを民間部門

が負うことになっており、偶発的に発生するリスクだけでなく、景気変動や大災害、他の

迂回経路の登場などのような共通的ショックによる料金収入の変動を民間部門が負うこと

になるが、政府がリスクを負う方が資源配分の効率性の観点から望ましいといえる可能性

もあるからである。なお、連邦運輸デジタルインフラ省によれば、料金収入の不確実性が

存在するFモデルを適用しているPPP事業は、赤字になっているとも述べている。原因と

して、料金徴収を避けるために通行ルートの迂回が生じているためと指摘しているが、ち

ょうど共通的ショックによる料金収入の変動が生じている状況ともいえる。

その他にも、連邦会計検査院は、2つの点で改善を求めている。一つは、民間部門に資金

調達をさせる PPP モデルについて、伝統的な資金調達方法に比べて民間部門の長期資金調

達コストは大きくなるので、民間部門での資金調達割合を減らすように公的資金を初期時

点で投入することである。もう一つは、連邦運輸デジタルインフラ省の投資評価における、

13

V-Modellは、Verfügbarkeit(アベイラビリティ、有効性)にちなんで名付けられている。

14

各モデルの具体的な事業等についての情報は、連邦運輸デジタルインフラ省のホームページ

のPPPに関して記載されている下記リンクを参照されたい。

http://www.bmvi.de/DE/VerkehrUndMobilitaet/Verkehrstraeger/Strasse/OePPImFernstrassenbau/oepp-im -fernstrassenbau_node.html

15

以下では、連邦会計検査院に対する補足的な文書での質問、回答のやりとりによる調査に基

(16)

13

割引率や利子率リスクの取り扱いに関して、連邦財務省の定める手法から逸脱したものと

なっており、連邦財務省の手法に従うようにすることを勧告している。

2.2.4 今後の展望

今後の検討事項として、連邦運輸デジタルインフラ省は、州への委託方式の実施を効率

性の観点から再考することになったと述べている。同省によれば、ちょうど日本の道路公

団と同じような高速道路公団の創設などを検討しているとのことであった。これは、前述

の連邦長距離道路料金収入により、連邦長距離道路の建設から維持補修、オペレーション

までの費用が賄えることが想定されれば、有力な選択肢になりうるものと考えられる。政

府部門から独立した経営体になれば、毎年の予算制度に縛られることなく道路会社の運営

が可能になり、年をまたぐプロジェクトの実施など、これまで以上に効率的に経営を行う

ことが可能になると考えられよう。

2.3 州道整備について

2.3.1 州道の状態について

今回、調査を行ったノルトライン=ヴェストファーレン州とザクセン=アンハルト州は、

ともに、連邦長距離道路については十分に予算を投じられているため老朽化に関して問題

はないものの、州道や郡道については、状態は悪く維持補修の予算不足であるという共通

認識を持っていた。

その予算不足の規模について、ノルトライン=ヴェストファーレン州においては、老朽

化対策として必要な金額が年間2 億ユーロであるのに対して、実際の予算は約 1 億ユーロ

のみであると述べている。なお、必要な金額の根拠は、現時点の点検データと15年先の予

測に基づき、全体として、州道の悪い状況が一定割合で抑えられている状態で推移するよ

うにするために必要な金額としている。また、ザクセン=アンハルト州においても、連邦

長距離道路が東西ドイツ統一後から現在にかけて改善している一方で、州道は、道路予算

の75%を補修に回しているものの、全体的にみて資金不足の状況にあると述べている。

州道の状態の良否の判断については、両州ともに、基本的に連邦長距離道路と同じ全国

共通の技術基準で、一定期間ごとに診断を実施しているということであった。ザクセン=

アンハルト州では、維持補修のシステム化もはかっており、連邦が使用している道路マネ

ジメントシステムを導入済みとのことである。ただし、連邦が使用している橋梁マネジメ

ントシステムについては、数値の計算方法に欠陥があるため、現在は導入していないとも

述べている。

また、道路整備の優先度についても、両州ともにそれぞれが独自に判断しているようで

ある。ザクセン=アンハルト州では、交通量が多いところ(ザクセン=アンハルト州でい

(17)

14

準のみでは考慮されない地域が出てくるので、一部は交通量基準とは異なった方法で決め

ている。さらに、自治体と民間企業が共用している橋りょうなどは、ある程度経済効果が

見込めることを想定し、優先度を高くするといったことを行っているようである。

2.3.2 道路向け予算について

州道整備は、連邦長距離道路とは異なり、州の自主財源と連邦からの補助金、つまり税

財源で賄っている状況である。また、道路整備は、交通インフラ整備全体からみれば一部

にすぎない。したがって、道路予算は、予算全体のうち交通インフラ整備に対してどの程

度配分されるかに影響を受け、さらに交通インフラのうち道路整備に対してどの程度配分

されるかに影響を受ける。

表 3 は、州毎の道路および鉄道の総延長と、その規模感を表すために面積比および人口

比で示したものである。交通インフラは、都市州であるベルリン州やブレーメン州、ハン

ブルク州では鉄道の総延長のほうが大きいものの、その他の州は、総じて道路の総延長の

ほうが大きい。このことから、交通インフラの予算配分において、維持補修向けの予算に

限っても、道路向けに予算を多く配分せざるをえないと考えられる。

表3 道路および鉄道インフラの整備水準

(注) 道路は2015年1月1日時点の連邦道と州道、郡道の合計、鉄道は2013年12月31日時点の総延長を

表し、面積は2011年12月31日時点のもの、人口は2011年国勢調査のものを利用している。

道 路 鉄 道 道 路 鉄 道 道 路 鉄 道 旧 東 ド イ ツ 地 域

ベ ル リ ン 州 246.0 778.0 0.3 0.9 0.1 0.2 ブ ラ ン デ ン ブ ル ク 州 12,236.0 2,894.0 0.4 0.1 5.0 1.2 メ ク レ ン ブ ル ク = フ ォ ア ポ ン メ ル ン 州 9,988.0 1,749.0 0.4 0.1 6.2 1.1 ザ ク セ ン 州 13,451.0 2,805.0 0.7 0.2 3.3 0.7 ザ ク セ ン = ア ン ハ ル ト 州 10,960.0 2,356.0 0.5 0.1 4.8 1.0 テ ュ ー リ ン ゲ ン 州 9,627.0 1,701.0 0.6 0.1 4.4 0.8 小 計 56,508.0 12,283.0 0.5 0.1 3.6 0.8 旧 西 ド イ ツ 地 域

(18)

15

(出所) Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計局)より筆者作成

また、表 4 は道路を道路種別に区分したうえで、総延長および規模感を示す人口比を州

別に表したものである。これらのうち、特に表 4 の州道の項目に着目すると、人口比にお

いて、旧東ドイツ地域は、旧西ドイツ地域の州に比べ総じて高水準になっていることがわ

かる。人口比指標は、現在の道路の維持を前提にすると、一人あたり維持していなければ

ならない道路延長の指標として解釈することも可能で、旧東ドイツ地域において維持しな

くてはならない道路延長が大きいことを示している。さらに、表4の人口比は2011年時点

の人口を用いているが、今後の人口予測においても、表 1 で示したように、旧東ドイツ地

域の州は、旧西ドイツ地域の州に比べて、人口減少率が大きくなると予測されている。以

上のことからみて、旧東ドイツ地域の州の住民は、現在の道路を維持するためには旧西ド

イツ地域の州の住民に比べて財政的な負担がかなり大きくなることを示唆している。

表4 道路種類別の道路総延長と人口比率

(注) 道路は2015年1月1日時点、人口は2011年国勢調査を利用している。なお、連邦道は、アウトバー

ンと連邦道路の合計である。

(出所) Statistisches Bundesamt(ドイツ連邦統計局)より筆者作成

州道向け予算の使途について、インタビューを行ったノルトライン=ヴェストファーレ

連 邦 道 州 道 郡 道 連 邦 道 州 道 郡 道 旧 東 ド イ ツ 地 域

ベ ル リ ン 州 246.0 - - 0.1 - -ブ ラ ン デ ン -ブ ル ク 州 3,561.0 5,705.0 2,970.0 1.5 2.3 1.2 メ ク レ ン ブ ル ク = フ ォ ア ポ ン メ ル ン 州 2,545.0 3,293.0 4,150.0 1.6 2.0 2.6 ザ ク セ ン 州 2,912.0 4,798.0 5,741.0 0.7 1.2 1.4 ザ ク セ ン = ア ン ハ ル ト 州 2,581.0 4,043.0 4,336.0 1.1 1.8 1.9 テ ュ ー リ ン ゲ ン 州 2,059.0 4,283.0 3,285.0 0.9 2.0 1.5 小 計 13,904.0 22,122.0 20,482.0 0.9 1.4 1.3 旧 西 ド イ ツ 地 域

バ ー デ ン = ヴ ュ ル テ ン ベ ル ク 州 5,424.0 9,909.0 12,065.0 0.5 0.9 1.2 バ イ エ ル ン 州 8,993.0 14,041.0 18,858.0 0.7 1.1 1.5 ブ レ ー メ ン 州 114.0 - - 0.2 - -ハ ン ブ ル ク 州 190.0 - - 0.1 - -ヘ ッ セ ン 州 4,002.0 7,165.0 4,930.0 0.7 1.2 0.8 ニ ー ダ ー ザ ク セ ン 州 6,127.0 8,242.0 13,699.0 0.8 1.1 1.8 ノ ル ト ラ イ ン = ヴ ェ ス ト フ ァ ー レ ン 州 6,682.0 13,102.0 9,780.0 0.4 0.7 0.6 ラ イ ン ラ ン ト = プ フ ァ ル ツ 州 3,772.0 7,237.0 7,383.0 0.9 1.8 1.9 ザ ー ル ラ ン ト 州 576.0 846.0 626.0 0.6 0.8 0.6 シ ュ レ ス ヴ ィ ヒ = ホ ル シ ュ タ イ ン 州 2,082.0 3,669.0 4,127.0 0.7 1.3 1.5 小 計 37,962.0 64,211.0 71,468.0 0.6 1.0 1.1 全 国 計 51,866.0 86,333.0 91,950.0 0.6 1.1 1.1

(19)

16

ン州、ザクセン=アンハルト州ともに、維持補修向け予算に多くを回そうとはしているよ

うである。州道の道路整備において、連邦から州に対しては、地方交通整備に対する補助

金として解消法と地域化法による財政的な支援が存在し、州道の管理は州が責任を持つも

のとなっている。この点からみれば、連邦会計検査院が指摘しているように、現行の維持

補修のための予算不足は州政府の税の使途に関する問題であるといえよう。

こうした中であっても、州道の維持補修向けの予算不足については、二つの理由で意図

した通りになっていないといえる。一つは、現在完成に向けて進めている新設工事が存在

していることであり、もう一つは政治的な問題である。

現在工事中の新設工事が存在することについては、ノルトライン=ヴェストファーレン

州では、現在新たな道路建設をする予定はないものの、すでに着工しているものは完成さ

せる必要があり、そのための資金は、あらかじめ確保せざるをえないと述べている。この

ために、維持補修工事に回せる予算は、工事中の事業の予算分だけ少なくなってしまって

いる。

政治的な問題については、ノルトライン=ヴェストファーレン州、ザクセン=アンハル

ト州ともに維持補修向け予算不足の主要な要因の一つとして認識しているようであった。

現行の予算制度においては、道路向けに全く予算が割けないという状況にはない。ただし、

目に見えるメリットのない道路の維持補修に予算を向けるためには、その必要性が政治的

なプロセスのなかで認識される必要がある。

特に、道路インフラのように、長期間にわたって存在し、存在することが当然のことと

して認識されているインフラは、その存在に対して危機的な状況が生じてはじめて、新た

な資金投入の必要性を認識することになると考えられる。その一例として、日本における

道路の維持補修に関して注目を集めた 2012 年12 月の中央自動車道笹子トンネル天井板落

下事故を挙げることができる。この事故により、トンネルの天井版や橋りょうなどの道路

インフラ施設の老朽化に注目が集まり、結果的に、点検や維持補修を行うための制度が構

築されている。このように、政治的な決定プロセスで予算を獲得するためには、社会全体

で問題が認識、共有される必要があるということを示している。

こうした事例は、日本だけでなく、ドイツにおいても全く同じようにみられたことは興

味深い。ノルトライン=ヴェストファーレン州は、ライン川に架かるアウトバーン 1 号線

の橋の通行が長期にわたって止まってしまった事例 16

において、経済的な影響が非常に大き

く、維持補修の重要性が注目を浴びていたことを指摘していた。これらの事例は、道路イ

ンフラの維持補修は、危機的な状況に直面しないかぎりなかなか認識されず、道路の維持

補修向け予算を確保することの難しさを示しているといえよう。

16

中田(2014)によれば、橋台にひび割れが確認されたため、2012年11月末に3.5トン以上の車

(20)

17

2.3.3 今後の道路整備の方向性について

将来的に人口減少が進むなかで、道路の維持管理の持続可能性の観点からみて、極端な

選択肢の一つとして道路の減築が考えられる。道路の減築は、直接的に維持補修コストを

節減すると共に真に必要な道路の維持補修予算の確保を可能にするであろう。特に、今回

のインタビュー対象の一つであるザクセン=アンハルト州は、人口減少がドイツ国内の他

州に比べて大きく、かつ現状の人口規模からみても過剰なインフラ設備になっているとい

うことからも、減築の実施可能性は存在するかもしれない。

この点について、ザクセン=アンハルト州は、住民の不利益につながる点で不人気な政

策手段であり、政治的に実現することは難しいだろうと述べている。さらに、道路の整備

水準の変更、具体的には、管理状態の基準を下げるといった手段の可能性も、国レベルで

規定されている以上は難しいとも述べている。ただし、もし可能であるとすれば、という

前提付きではあるが、州道において規定されている車線数などの要件が緩和されれば、車

線数の削減により維持補修のコストを下げることは可能であろうという同州の指摘は、実

現可能性はともかくとして、将来的な減築を進める方向性としては示唆に富むものといえ

よう。

ちなみに、発生主義複式簿記会計を導入しているノルトライン=ヴェストファーレン州

において、減価償却をはじめ発生主義会計により入手可能になったインフラに関するデー

タが、政治的な決定をする上で役に立っているかどうか聞いてみたところ、理想的には役

に立つ状況にあるべきであるが、現実の政治的決定にはほとんど関係していないと述べて

おり、政治的な決定のプロセスでの利用次第であるという指摘は興味深い。

このことは、費用便益分析の利用における政治的決定との関係性と共通点を持っている。

ノルトライン=ヴェストファーレン州、ザクセン=アンハルト州ともに、現在新設計画は

ほとんどないとのことであったが、費用便益分析が実際の決定に使われているかは、政治

的な決定に意味を持つか否かに依存すると述べている。

近年、日本において発生主義複式簿記会計の導入を推進する動きがみられるが、それが

どういう意味を持っているのかを政治的な決定プロセスのなかで認知されている必要があ

るといえるだろう。

2.4 小括

道路整備に関する調査を通じて、連邦および州における問題意識として、異なる方向性

が存在していることが明らかになった。

連邦長距離道路においては、交通におけるボトルネックの解消を除けば、道路網の整備

は高水準で、道路新設の必要性が低下したことを踏まえ、BVWP 2015における優先順位付

けは維持補修を最優先としたものになろうとしている。また、道路財源は、利用料金によ

(21)

18

ても適切なレベルでの維持補修を可能としていく可能性はある。さらに、料金収入を中心

とした財源の下では、連邦が計画を立てたうえで州が実施、という政府が関与する現行の

スタイルを変えることも可能になっており、具体的には、いわゆる道路公団方式による実

施なども検討されているとのことである 17

。ドイツの連邦長距離道路の政策の方向性は、日

本の道路政策の形に近づいているといえよう。

ところで、現在の日本の高速道路会社が料金収入をベースに運営されている理由の一つ

として、高速道路が高架化されており、その結果、高速道路利用者から漏れなく料金所で

料金徴収できていることが挙げられる。ドイツにおいて、高架化されておらず地表面に設

置されている連邦長距離道路が料金収入で運営できるようになっているのは、GPS やナン

バープレート読み取りセンサー、インターネットの利用という技術が寄与しているといえ

る。これは、非排除性と非競合性を満たす純粋公共財の性質をもつ道路サービスが、技術

進歩によって排除可能になっている事例といえ、道路サービスが公的部門により提供せざ

るをえない、という根拠を覆しうる点で興味深い。

他方で、連邦長距離道路において進められている施策について、考慮しなければならな

い課題が 2 つ存在すると考えている。一つは、技術的に民間部門による運営が可能になり

つつある道路サービスのオペレーションにおいて、政府の関与を完全に切り離すことの危

険性である。それは、連邦長距離道路サービスの独占的供給を原因とするものと、収入の

変動リスクを原因とするものである。前者は、供給独占による非効率性の発生可能性によ

るもので、公社もしくは料金規制などによる政府の関与が必要になろう。後者は、収入の

変動リスクのうち、大災害による道路損壊や不景気による利用者減といった、社会的リス

クによる減収に対して政府の財政投入などの対応手段を残す点からみて、政府が一定の関

与をしておくことは必要であろうと考えられる。

もう一つは、現状の維持補修向け予算規模の妥当性である。連邦会計検査院の維持補修

の状況に関するレポート(Bundesrechnungshof (2015))で指摘されているように、いくつか

の実地検査を通じて、維持補修が不十分な状況にあることが示唆されている。連邦運輸デ

ジタルインフラ省が税財源に頼らずに運営できるようになりつつある、という認識を示し

ているが、現行の料金収入で維持補修が十分に賄える、という前提条件付きであるといえ

よう。

州道においては、制度上、州の管轄であることもあって、州の自主財源と連邦からの補

助金、つまり税財源によって賄われざるをえない。それに加えて、道路整備のための財源

が一般財源のなかから確保されなくてはならなくなるなかで、政治的な関係性から切り離

せなくなっている。特に道路の新設は、目に見えて社会生活の便益がもたらされることが

分かるために市民の認識が容易で政治的にも支持されやすいものである一方で、道路の維

持補修は、継続的な実施が重要であることを市民や政治家が認識することは容易でない。

17

ただし現在の州に委託する方法はドイツ連邦共和国基本法で規定されているため、基本法の

(22)

19

これは、日本における中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故やノルトライン=ヴェス

トファーレン州のライン川に架かるアウトバーン 1 号線の橋における通行規制のように、

不利益を受ける状況になってはじめて認識されることが多くみられることからも推察でき

よう。人口減少を迎える社会において、道路の新設はほとんどなく維持補修が中心になる

状況下では、政治的な決定においてますます道路向け支出に対する優先的な配慮が困難に

なると考えられる。さらに、連邦長距離道路における維持補修が不十分である可能性があ

ることは、現時点で維持補修に関して確実性をもって予算を確保するほどの体系的な知見

がみられていないともいえる。こうした状況下では、維持補修予算を安定的に確保する制

度的枠組みの構築が必要になるが、それ以前に、道路整備の確保が重要であることを国民

や政治家が広く認知できるような取り組みを行うことで、予算配分における道路整備の優

先性を政治的な決定に反映できるようにすることは不可欠であろう。

こうした国民や政治家に対して、特に道路の維持補修の重要性を広く認知させる取り組

みとして、ドイツでの連邦会計検査院による道路の維持補修向け支出の「不足」の指摘が

その一翼を担っていることは興味深い。日本においても、会計検査院が道路政策、とくに

維持補修のように国民の認知度が低いけれども重要な施策に対して踏み込んだ指摘を行っ

ていくことは、国民や政治家の道路整備に対する認知を広げていくには重要なことといえ

(23)

20

3.

ドイツの都市政策の現状と課題

ドイツでは、2013年の合計特殊出生率が1.39で、EU全体(1.54)と比べて低く 18

、人口

が一定となる合計特殊出生率である人口置換水準を下回っていることもあり、人口減少が

進んでいる。それと同時に、大都市への人口集中と地方圏の過疎化、さらに経済力の差か

ら旧東ドイツ地域から旧西ドイツ地域への人口移動が進んでいる。そうしたなかで、住宅

については、大都市圏における住宅不足、地方圏における空き家の増加が問題になってお

り、生活関連インフラについては、維持の持続可能性が問題になっている。

以下では、ドイツにおける都市をめぐる政策について代表的なものを取り上げ、その仕

組みについては文献調査およびインタビュー調査、課題についてはインタビュー調査を中

心にして明らかにする。

本章の構成は以下のとおりである。第 1節から第4節は制度概要である。第 1節では国

土計画制度および都市計画制度の概要を説明し、第 2 節では住宅政策の歴史的変遷、第 3

節では、旧東ドイツ地域で2000年代はじめから住宅減築を中心とした施策である「東の都

市改造」、第 4節では、EU により提唱されたグリーン・インフラストラクチャーの概要を

説明する。第 5 節は、インタビュー調査を踏まえて都市政策の現状とその評価について述

べる。第 6 節は、ザクセン=アンハルト州会計検査院での会計検査とその実例として「東

の都市改造」に関する会計検査について述べる。第 7 節では、都市政策の今後の展開とし

て、減築政策の持続可能性と、都市政策の費用負担についてインタビュー調査から明らか

になったことを述べる。

3.1 国土計画・都市計画制度の概要

本節では、都市をめぐる政策のうち、国土計画の策定における基本的な枠組みと、都市

計画による規制の概要、都市計画の歴史的変遷の概要について述べる。

3.1.1 国土計画の基本的枠組み

19

ドイツの国土計画において中心的な役割を担うのは州であり、連邦政府は、州政府や市

町村の地域計画の法的根拠を与える制度設計をする役割を担っている。具体的に、連邦政

府の役割としては、国土整備計画に関する連邦レベルでの調整や、交通に関する州レベル

の計画における連邦レベルとの統合、EU における代表、新たな国土整備計画原則の提示、

空間開発モニタリングが挙げられる。連邦レベルでの国土整備計画原則を定めるものとし

て、 連邦 国土 整 備法 (Bundesraumordnungsgesetzes: ROG) や国 土 整備 政策 構想

18

数値は欧州連合統計局のデータに基づいている。なお、EU全体の数値は暫定推定値で、ドイ

ツの数値は確定値である。 19

本項は、インタビュー調査で聞き取った内容のほかに、瀬田(2005)とWiener and Stauske (2005)、

(24)

21

(Raumordnungspolitischer Orientierungsrahmen)がある。

なお、連邦政府が国土整備計画原則を定めるときには、州との間で相互に調整すること

になっている(対流原則(Gegenstromprinzip))。その具体的な枠組みとして、「地域計画閣

僚会議」(Ministerkonferenz für Raumordnung:MKRO)があり、その会議を通じて、連邦の

国土計画や州の地域計画の採用や修正、連邦国土整備法の調整なども図られており、国全

体で調和がとれた計画の立案を図ろうとしていることがわかる。

なお、連邦環境建設省によれば、地域計画閣僚会議のほかに、独自で情報収集を行って

おり、たとえば自治体ニーズを把握するために、連邦職員が州や地方自治体、研究所等に

おける会議に参加し、そのなかでの自治体によるプレゼンテーションを聞くなどしている

とのことであった。このことからも行政レベルでの情報収集、情報交換が密に行われてい

ることもわかる。

州レベルの地域計画は、州全体の地域計画である「広域計画」(Landesplanung)、州の一

部地域を対象とした「地域計画」(Regionalplanung)に区分されている 20

。「広域計画」にお

い て は 、 ① 集 密 都 市 地 域 と 市 街 化 整 序 地 域 、 農 村 地 域 の ゾ ー ニ ン グ 、 ② 上 位 中 心 地

(Oberzentrum)と中位中心地(Mittelzentren)の指定、および下位中心地(Unterzentren)の

指定条件の設定 21

、③交通及びライフラインの整備地域、インフラ施設及びエネルギー供

給・利用条件の設定、④自然保護や自然環境保全、農林業、記念物保護指定など 6 項目を

規定し、概ね20 万分の 1 の図面として示すことになっている。また、「地域計画」におい

ては、下位中心地や広域交通施設、農業用地等の9項目を規定し、概ね10万分の1の図面

で示すことになっている。

市町村レベルにおける都市計画の基本的な枠組みは、市町村により策定される「建設基

本計画」(Bauleitplan)にある。建設基本計画は、「土地利用計画」(Flächennutzungsplan)と

「地区詳細計画」(Bebauungsplan)の2つの計画からなっており、原則として土地利用計画

を前提にして地区詳細計画が作られることになっている。なお、州などの上位の行政体で

の計画立案の場合と同様、これらの計画は上位の行政体との間で調整が図られ、かつ上位

の計画(連邦の国土整備計画や州の発展計画など)を逸脱しない範囲で計画を立てること

になっており、国全体で整合的な計画の立案になるようにしている。

20

ベルリン州、ブレーメン州、ハンブルク州のような単一もしくは2つの都市からなる都市州

における「広域計画」は、「土地利用計画」(Flächennutzungsplan)とよばれる。 21

これらの区分は、地域発展を実現するための手段の一つとして提示されている中心地コンセ

プト(Zentrale-Orte-Konzept)に基づくもので、地域の中心地域を核にして、後進地域を発展さ

せることを想定している。このコンセプトでは、発展させようとする地域内にある都市を、その

地域の中心となる高位中心地(Oberzentrum)と、高位中心地と連関性をもつ複数の中位中心地

(Mittelzentren)、さらに中位中心地と関連性をもちながらも、住民の基礎的なニーズを賄う複数

の下位中心地(Unterzentren)や小中心地(Kleinzentrun)という階層構造のなかに位置付ける。

なお、ドイツの地域計画において、高位中心地と中位中心地は、州の広域計画で定められ、その

(25)

22 図5 ドイツにおける地域計画策定の階層構造

(出所) Wiener and Stauske (2005)、瀬田(2005)より筆者作成

3.1.2 ドイツにおける都市計画による規制

都市計画と土地所有権の関係は、一般的に、都市計画が土地所有権に対する制限になっ

ている。ドイツにおいて都市の縮減がシステマティックに進んでいる状況について、イン

タビュー調査のなかではドイツ人が公共空間や公共財への意識が存在するという指摘もあ

ったが、都市計画における基本的考え方が日本と全く異なることも一因に含まれると考え

ている。そこで、以下では、ドイツにおける都市政策の規制について簡単に述べることに

したい 22

ドイツにおける都市計画は、前述のように、市町村によって策定される建設基本計画を

基本とし、建設基本計画は、土地利用計画と地区詳細計画からなる。土地利用計画は、市

町村全域を対象にして、道路や緑地・公園、公共施設の配置を含む土地利用の区分を概観

22

以下は、広渡(1993b)を参考にして記載している。

可能性/目標/論争  許可  実施  特定化

可能性/目標/論争  許可  実施  特定化

市町村:建設基本計画の策定

土地利用計画・地区詳細計画 欧州連合

欧州空間発展展望(Europäischen Raumentwicklungskonzepts: EUREK)

連邦:国土整備の枠組みの策定

連邦国土整備法(Bundesraumordnungsgesetzes:ROG)

国土整備政策構想(Raumordnungspolitischer Orientierungsrahmen)

地域計画閣僚会議(MKRO)

連邦と州の協調

州:広域計画の策定

(26)

23

的に表示するもので、通常、10年から15年程度の将来を目標として策定される。これは、

市町村議会で承認され、州の行政官庁の認可を要する。

地区詳細計画は、市町村の一部または全域、合理的と認められる場合には 1 ヶ所の不動

産に対して策定されるもので、新たに市街化する地域や再開発地域における土地利用の詳

細が定められる。地区詳細計画に含まれる不動産に対しては、個別的、具体的な利用の指

定が行われ、何を、どれだけ(容積率など)、敷地のどこに建てられるか、隣との建築物と

の距離などが詳細に定められる。なお、地区詳細計画は、基本的に土地利用計画に基づい

たものであり、法的拘束力をもつ。

地区詳細計画の適用地域においては、建築は、地区詳細計画の規定に反しないかぎりで、

かつ日常生活の基礎になる公共施設の整備がなされていることを条件にして認められる。

他方で、地区詳細計画が定められた領域以外は、「連担建築地域」(im Zusammenhang bebauter

Ortsteil)と「外部地域」(Außenbereich)のいずれかとなる。「連担建築地域」とは、定住が

完結した全体性をもって示されている家屋の集合体を指し、既成市街地のことをいう。「外

部地域」とは、原則として建築が行われるべきでない地域で、法が定める特定の種類の建

築しか許されない地域をいう。この区分は、後述するように、歴史的にはナチス政権時か

らみられるものである。

このように地区詳細計画が定められた地域のみ新たな建築が認められるものの、その他

の地域では、現状を基準としており、現状を著しく変える建築は許されないことになる。

この考え方を、都市法の分野で「建築不自由の原則」と呼んでいる。

他方、日本における都市計画法制の体系は、ドイツと全く逆であるといわれている(高

橋 2000)。日本における都市計画法制は、建築については原則自由で、必要がある場合に、

建築を認めない地域を設ける、という体系である。これは、土地を所有する当事者にとっ

ては、都市計画で制限をかけられるということは、自己の土地利用権に対して法律によっ

て制限されることを意味するので、土地の利用を制限されることに対して抵抗感をもつ可

能性があり、公権力によって土地の利用を制限するような規制を設けることを実際上難し

くすると考えられる。

3.1.3 都市計画の歴史的変遷

23

現在のドイツの都市計画の基本的な考え方は、ナチス政権時までに形成されているとい

われている。

ドイツにおいて、私的で自由な処分権としての土地所有権が社会的に成立したのは、19

世紀であるといわれている。この時代においては、公共に対する危険を回避することが求

められており(これを建築警察的規制と呼ぶ)、それ以外は自由であった。 19世紀末以降になって、工業化によって労働者が流入し、都市のスプロール化

24

と都市に

23

本項は、広渡(1993a)を参考にして記載している。 24

図 3 BVWP 2015 における道路整備の優先順位の決定プロセス
図 4 BVWP 2015 における新設道路の評価における優先度基準

参照

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